北烏山編集室のこと
編集者2名の小さな出版社兼編集プロダクションです。 単行本・図鑑・事典など、幅広い書籍の企画・編集をてがけます。
こういうの読むとワクワクしますね。英語英文学・翻訳のふたり出版社、北烏山編集室のふたり出版社を作るところから、記念すべき最初の1冊『オリンピア』刊行までの経緯を書いたブログの日記を読みました。
越前敏弥さん翻訳のデニス・ボック『オリンピア』は、2023年12月に発売された本。私は、たまたま本の書評を探していて、その本の感想を書いたブログに辿り着いたのだけれど、その文章がとても面白くて。私には少し難しいかなと思っていた本だったから、こんな書評だったら読めそうな気がする、と感激。ふと見上げたら、ブログの名前が「北烏山だより」となっていて、Xで見ていた北烏山Mさんって、こんな方だったんだとうれしくなりました。
そんな経緯で読んだブログの日記。ふたり出版社のはじめの一歩、バイブル・宮後優子『ひとり出版入門』のこと、社名の由来とそれにまつわるエピソード。個人事業主から株式会社設立、ISBNコードの取得、版権交渉、造本・装幀、印刷会社の決定、見本出来、流通を決める、そして『オリンピア』の刊行へ。
自社出版までの道のりを、ほぼリアルタイムで事細かく記しているから、これはひとり出版社を立ち上げたいと思っている人には、絶対参考になるはず、という内容。元同僚の言葉に樋口さんが動揺するさまなど、ちょっとしたエピソードも可愛らしい。
でも、私が本当におすすめしたいのは「翻訳家になりたかった頃」というお話と、山本文緒『無人島のふたり』を読んで思い出したこと(こちらは自分で探してみて)。ぜひ読んでみて欲しい。編集者の樋口真理さん、国語教師もされていたとか。エッセイを出していないのが不思議なくらい。もっと樋口さんの文章を読みたいと思う。
翻訳家・越前敏弥さんのこと。『オリンピア』は越前敏弥さんの持ち込み企画で、20年以上前に原著に出会い、日本の読者に紹介したくて翻訳出版できるあてもないのに全文翻訳、7社からお断りのお返事をもらってもめげることなく8社目でようやく出版にこぎつけたという、とてつもない思い入れが詰まった作品。まさに越前敏弥「執念の持ち込み本」。持ち込みのいきさつや、翻訳書の企画持ち込み成功のコツは、越前敏弥さんのブログやYoutubeでも紹介されていて、こちらも必見です。
そして、北烏山編集室の気になるもう一冊の本、レスリー・シモタカハラ『リーディング・リスト』。
学生から“史上最悪の教授”と揶揄され、転職も恋愛も失敗、精神的にひどく追いつめられた娘(日系カナダ人4世の著者)が、定年退職した父のために作った「リーディングリスト」=読むべき本リスト。イーディス・ウォートン『歓楽の家』や、ヴァージニア・ウルフ『ダロウェイ夫人』など、各章のタイトルがリストの13冊の作品名になっていて、自伝小説(オートフィクション)としてだけでなく、文学ブックガイドとしても読むことができる。これは本好きにはたまらない。
【追記】北烏山編集室の編集者・津田正さんと樋口真理さん。おふたりともブログで本の感想を書かれていて、読書家でいらっしゃるんだなとは思っていたのだけれど、本当に本について語る(書く)ことが好きな方たちなんだと改めて驚く。
HP掲載の自社出版の本に関してはいたって普通。ただ編集担当書籍が、同じく定型の説明文かと思ったら、本にまつわるエピソードや思い入れが書かれていて、きちんとする場だと思い込んでいたから見逃すところだったよ、と思う。「私のイチ推しは〜」とか「まったく苦にならず、遊んでいるようなお仕事だった。」とか随所に嘘のない正直な空気を感じ、思わず顔がほころんでしまう。
そして何よりすごいのが、ご恵贈いただいた本の感想。HPから本のタイトルをクリックし、掲載したXへと飛ぶ。すると文章の終わりに「1/n」というナンバーが振ってあるのが見える(津田さんの方)。そう、続きがあるのだ感想に。その平均は「5/5」、2冊まとめて書いたときなどは「10/10」にまでなっていることもある。本を贈っていただいたお礼という名目を、はるか高く飛び越えてしまっている。興味のある本の話題を振ったら、話が止まらなくなりそうだ。
北烏山編集室からどんな本が生み出されるのかとても楽しみ。それととともに、今後もおふたりの動向を遠くから見守りたいと思う。
北烏山編集室の本
「オリンピア」デニス・ボック、越前敏弥
『オリンピア』
デニス・ボック,越前敏弥
2023/12/05
北烏山編集室
記憶と鎮魂のファミリー・ヒストリー
第2次世界大戦をきっかけにドイツからカナダへ移住した家族を描く連作短編集。静かで平和に見える一族の生と死が詩情豊かに語られる。点景としてのオリンピック、断片としての家族の歴史。
――レニ・リーフェンシュタールが編集したあとの映像から、この話を語ることはできないだろう。何マイルにも及ぶサブプロットや暗示的な映像が切り刻まれて黒いリボンに何度もまとめられ、忘れ去られた。
――ぼくたち家族の才能は永遠のものだと思っていた。
装釘 宗利淳一
越前敏弥 Toshiya Echizen(オフィス翻訳百景)
『オリンピア』刊行
『オリンピア』もうひとつのあとがきと、ある編集者の感想
『オリンピア』作者デニス・ボックさんからのメッセージ
あらためて、『オリンピア』について思うこと
ハイキャリア
第262回 出版翻訳家インタビュー~越前敏弥さん 前編
第263回 出版翻訳家インタビュー~越前敏弥さん 後編
Spotify
第150回 家族の眩い日々と苦難の物語「オリンピア」デニス・ボック著 – 文学ラジオ空飛び猫たち(約43分)
Book Bang -ブックバン-
「平凡な」オリンピック選手一族の苦難と再生のファミリー・ヒストリー(レビュアー:佐久間文子/文芸ジャーナリスト)
WEB本の雑誌
死者生者入り乱れる狂騒の島にダイブ! – 新刊めったくたガイド(文・石川美南)
毎日新聞
ブックウオッチング:新刊 『オリンピア』=デニス・ボック著、越前敏弥・訳
北國新聞
デニス・ボック「オリンピア」など 心にしみる清らかな読後感 ブックマイスター・江南亜美子 海外文学
福井新聞D刊
オリンピア 心にしみる読後感 海外文学 ブックマイスター
図書新聞Web
時の流れに沈んだ歴史、記憶を浮上させる試み――「英語英文学・翻訳のふたり出版社」北烏山編集室の最初の書籍
京都新聞
新しい出版社の門出の一冊、スポーツ一家の美しい物語 四半世紀を経て翻訳刊行 【本屋と一冊】オリンピア デニス・ボック著、越前敏弥訳/北烏山編集室
「リーディング・リスト」レスリー・シモタカハラ
『リーディング・リスト』
レスリー・シモタカハラ,加藤洋子
2024/05/21
北烏山編集室
日系カナダ人4世の著者の手による自伝小説(オートフィクション)。本書の著者であり主人公でもあるレスリー・シモタカハラは、名門ブラウン大学で文学博士号を取得、カナダの田舎の大学で文学を講じている。だが、学生から〈史上最悪の教授〉と揶揄され、転職も恋愛も失敗、精神的にひどく追いつめられてトロントの実家へ帰郷。定年退職した父のために作った「リーディングリスト」=読むべき本リストに添って、日系カナダ人としての両親や祖父母の人生をたどり、自分自身の生と死を見つめる日々を送ることになる。
本書は13章から成りたっており、各章のタイトルがすべて、リストの作品名、つまり英米加の文学作品の名前になっている。たとえば、ソロー『森の生活』、ウォートン『歓楽の家』、ジョイス『ダブリナーズ』、ウルフ『ダロウェイ夫人』、ナボコフ『ロリータ』、ハメット『マルタの鷹』など。この13作品はすべて翻訳が出ていて、日本語で読むことができる。
解説・倉本さおり(書評家)
Spotify
第169回 文学によって人生を見直す父と娘「リーディング・リスト」レスリー・シモタカハラ著 – 文学ラジオ空飛び猫たち(約50分)
京都新聞
小説がトリガーになって展開する珍しい小説 「本好きにはたまらない」 【本屋と一冊】リーディング・リスト レスリー・シモタカハラ著、加藤洋子訳/北烏山編集室
毎日新聞
フィールドの向こうに:リーディングリスト=田原和宏
「カズオ・イシグロ、沈黙の文学」原英一
『カズオ・イシグロ、沈黙の文学』
原英一
2024/05/21
北烏山編集室
日系イギリス人作家カズオ・イシグロ(1954-)の全長編8作を読み解く。『幽かなる丘の眺め』(1983)から『クララとお日さま』(2021)に至る長編小説を、曲亭馬琴の“省筆”、「フロイト/デリダ」の“喪の作業”をキー概念に解き明かす。戦争と強制収容所の世紀であった「長い20世紀」を埋葬しようとするイシグロの小説世界の魅力を存分に語る。
北烏山編集室が編集を担当した本
株式会社 北烏山編集室
編集担当書籍
↑編集担当本の解説、感想も楽しい。
「シャーロック・ホームズの世界 大図鑑」アンドルー・ライセット
『シャーロック・ホームズの世界 大図鑑』
アンドルー・ライセット,日暮雅通
2024/10/16
河出書房新社
貴重で珍しい写真や図版も多数掲載!
ホームズ研究本の金字塔、ついに邦訳!
世界的に最も優れたドイル伝著者による徹底分析!
まったく新しいホームズ総合ガイドの誕生!
●本書の特徴
・最も評価の高いドイル伝著者によるユニークな内容
・作者コナン・ドイルと主人公シャーロック・ホームズを比較分析
・ホームズが置かれた時代背景や影響を受けた世界を詳細に解説
・ホームズの人気をつくり出し支えてきた社会の要因についても記述
・舞台や映画作品、研究者やホームズ愛好団体など多角的な分析も
「はじめて読む! 海外文学ブックガイド」越前敏弥、金原瑞人、三辺律子、白石朗、芹澤恵、ないとうふみこ
『はじめて読む! 海外文学ブックガイド : 人気翻訳家が勧める、世界が広がる48冊 (14歳の世渡り術)』
越前敏弥,金原瑞人,三辺律子,白石朗,芹澤恵,ないとうふみこ
2022/07/13
河出書房新社
Amazonに18人48冊の作品名が見られる目次
《NHK基礎英語2》のテキスト連載「あなたに捧げるとっておき海外文学ガイド」を書籍化。英語圏に加え、12名の各国語の翻訳家による推薦書を新規収録。新しい世界を覗いてみない?
18人の翻訳家がナビゲートする本は以下の通り、
毎週1冊、1年を通して48冊の本をご紹介します。
第1週〜3週はもとは英語で書かれた本、
第4週は世界のさまざまな言語で書かれた本の日本語翻訳版です。
「いっしょに翻訳してみない?」越前敏弥
『いっしょに翻訳してみない?: 日本語と英語の力が両方のびる5日間講義 (14歳の世渡り術)』
越前敏弥
2024/04/24
河出書房新社
日本語と英語の力が両方のびる5日間講義。O・ヘンリーの名作『二十年後』翻訳に、5人の中学生が挑戦…!?論理的な読み方を身につけ、言葉の感度が上がる、刺激に満ちたレッスンを書籍化!
「教科書の中の世界文学」秋草俊一郎、戸塚学
『教科書の中の世界文学: 消えた作品・残った作品25選』
秋草俊一郎,戸塚学
2024/02/28
三省堂
『世界文学アンソロジー』の姉妹編
「掟の門」「夏の読書」「ジュール伯父」「信号」「最後の授業」…。戦後の昭和~平成~令和に至るまで、時代を彩った世界文学の名作を教科書で採録されなかった部分も含めた“ノーカット”で収録。
「ドラキュラ」ブラム・ストーカー
『ドラキュラ (光文社古典新訳文庫)』
ブラム・ストーカー,唐戸信嘉
2023/10/12
光文社
トランシルヴァニア山中の城に潜んでいたドラキュラ伯爵は、獲物を求めて英国ロンドンへ向かう。嵐の中の帆船を意のままに操り、コウモリに姿を変えて忍び寄る魔の手から、ロンドン市民は逃れることができるのか。吸血鬼文学の不朽の名作。
「索引 ~の歴史」デニス・ダンカン
『索引 ~の歴史 書物史を変えた大発明』
デニス・ダンカン,小野木明恵
2023/08/23
光文社
索引をめぐる物語は、冊子本や活版印刷の発明などの書物史とともにあり、情報処理の歴史でもある。ドイツの印刷所、啓蒙派のコーヒーハウス、小説家の居間、大学の研究室を巡り、皇帝や法王、哲学者、首相、図書館員、プロの索引作成者たちを取材。索引が異端者を火刑から救った逸話、索引で政敵を挑発する流行なども紹介しつつ、13世紀の聖書の写本から今日の電子書籍にまで連なる道筋を描き出す。読書家垂涎の「索引」秘史!
★ニューヨーク・タイムズ紙
「注目すべき本」「編集者推薦書」
★ニューヨーカー誌、タイム誌、ワシントン・ポスト紙
「ベスト・ブックス・オブ2022」
「英語の記号・書式・数量表現のしくみ」大名力
『英語の記号・書式・数量表現のしくみ』
大名力
2023/07/24
研究社
ピリオド・カンマ・数字から発音記号・文字コードまで
好評を博した『英語の文字・綴り・発音のしくみ』(2014年)の番外編というべき一冊。英語で用いられるピリオド、コンマ、ハイフン、ダッシュ、アクセント記号、アポストロフィー、数字などについて英語学的に解説するとともに、英語の基本的な書式についても確認する。ふだんよく目にする発音記号や、コンピューターの文字処理に不可欠の文字コードについての章を設けている点もユニークな1冊。
そのほかの編集担当書籍
2024/05/30『よい教育研究とはなにか――流行と正統への批判的考察』ガート・ビースタ,亘理陽一,神吉宇一,川村拓也,南浦涼介(明石書店)
2023/10/24『ぼっち現代文: わかり合えない私たちのための〈読解力〉入門 (14歳の世渡り術)』小池陽慈(河出書房新社)
2023/09/21『ビジュアルでわかる はじめての〈宗教〉入門: そもそもどうして、いつからあるの? (14歳の世渡り術)』中村圭志(河出書房新社)
2023/07/26『黒人の歴史: 30万年の物語』ネマータ・ブライデン,沢田博(河出書房新社)
2023/05/23『フレーム意味論とフレームネット』藤井聖子,内田諭(研究社)
2022/10/19『世界を支配する人々だけが知っている10の方程式 成功と権力を手にするための数学講座』デイヴィッド・サンプター,千葉敏生(光文社)
2022/02/24『言語研究の世界: 生成文法からのアプローチ』大津由紀雄,今西典子,池内正幸,水光雅則,杉崎鉱司,稲田俊一郎,磯部美和(研究社)
北烏山編集室ににまつわる読みもの、関連動画
書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG
津田正 カテゴリーの記事一覧
ハイキャリア
第274回 編集者インタビュー~樋口真理さん(北烏山編集室) 前編(2024.05.22)
第275回 編集者インタビュー~樋口真理さん(北烏山編集室) 後編(2024.05.29)
いま会いたい:失われた五輪の理想 翻訳家・越前敏弥さん(62)、出版社共同経営者・樋口真理さん(59)(2024.02.24)
いま会いたい:「ダ・ヴィンチ・コード」翻訳者とオリンピックの意外な関係(2024.02.22)
版元ドットコム
求む! ロングセラー著書を企画した編集者のための賞(2024.02.14)
Peatix
第85回「読んでいいとも!ガイブンの輪」 年末特別企画 オレたち外文リーガーの自信の1球と来年の隠し球 vol.12(2023.12.23開催)
2023年、豊崎由美さん主催の年末恒例の「読んでいいとも!ガイブンの輪」に登壇。
Youtube「越前敏弥」
翻訳書の企画持ちこみ 成功のための5か条 ~『ロンドン・アイの謎』『オリンピア』『アウシュヴィッツの父と息子に』を例に~(2024.09.27)
『ストーナー』&『オリンピア』 どこが似ていてどこがちがう?(2024.06.16)
出演者は越前敏弥(翻訳者)、酒井七海(もくめ書店)、ダイチ&ミエ(文学ラジオ 空飛び猫たち)、ないとうふみこ(翻訳者)、樋口真理(北烏山編集室)。
Youtube「Tokyo MORE plus」
不朽の名作 シャーロック・ホームズ の英語を丁寧に読み解く、「英文解体新書2 ――シャーロック・ホームズから始める英文解釈」北村 一真 著(約19分/2021.07.09)
研究社時代の津田正さんのお話が聞けます。
コメント