いつものように翻訳家の木原善彦さんのXを見に行ったら、夢のあるポストを見つけてしまった。
ちょうど、翻訳出版の企画持ち込みにまつわるインタビューなどをまとめていたところだったので、興味津々。勝手にいろいろ妄想しつつ、ウィリアム・ギャディスについても調べてみることにしました。
ウィリアム・ギャディスのこと
ジェイムズ・ジョイスを継ぐ作家と激賞されたが、作品の長さと難解さのために、当初はカルト作家として一部に知られるのみだった。
その後、社内文書作成の仕事の傍らに書き上げた『JR』(1975年)で全米図書賞を受賞。これにより、「読まれざる大作家」だったギャディスの実力が広く認められた。『JR』ウィリアム・ギャディス,木原善彦
ウィリアム・ギャディスのこと。1955年に『認識(The Recognitions)』でデビュー。しかし、思うような評価が得られず、1975年に発表した『JR』で全米図書賞を受賞するまでの20年間は、家族の生活を支えるため、広報の仕事やドキュメンタリー映画の製作をされてたという苦労人。
英語版WikipediaをGoogle翻訳してみると、《彼の最初の小説『認識』は1955年に出版された。長くて複雑で、暗示的な作品だったため、読者を見つけるのに時間がかかった。》とか《新聞の評論家たちは、この作品を知的すぎる、書きすぎで、不快だとみなした 》とか《批評家の意見が彼に追いつき、その本は全米図書賞フィクション部門を受賞した。》などと書かれていて、若き日のギャディスが目に浮かぶ。
The Paris Review
William Gaddis, The Art of Fiction No. 101(英語)
1987年のインタビューでは、デビュー作『認識』について、自信過剰で、「この作品でノーベル文学賞を獲ったとしても驚かない」と、若さゆえの陶酔があったと認めていたり、本が評価されたことで逆に謙虚になったことなどを話されていた。
自信たっぷりだったデビュー作。それについて、批評家からいろいろ言われて、かなりがっかりしたとは思うけれど、その経験によって人間的に成長でき、そして書くことを諦めなかったことで、受賞と言う形で認められて、本当によかったね、と勝手に親近感みたいなものを感じてしまった。英語ですが、ぜひ読んでみて。
【追記】2025年1月7日、木原善彦さんがウィリアム・ギャディス作品の文字数を数えだしたよ。本気出すってことなのかな。今後の動向が楽しみなので、こっそり観察。
ウィリアム・ギャディスの作品のこと
ウィリアム・ギャディスの作品
The Recognitions – Wikipedia
ゲーテ『ファウスト』のパロディとして
書き始めた
1955年、デビュー作『認識』。
J R – Wikipedia
1975年、11歳少年の金融ブラックコメディ
全米図書賞、日本翻訳大賞受賞作『JR』。
Carpenter’s Gothic – Wikipedia
黙示録的ゴシック・サスペンス
1985年、『カーペンターズ・ゴシック』
A Frolic of His Own – Wikipedia
1994年、2度目の全米図書賞受賞作
『自己責任の遊び』
Agapē Agape – Wikipedia
2002年、ギャディス5作目にして最後の小説
『アガペー、アゲイプ』
『自己責任』と『アガペー』は出版のあてもなく途中まで(ちょっとだけです)訳してます。年齢・気力・体力・他の仕事を考えると『認識』は厳しいかも。でも、ちょっと久しぶりに読み返してみたい。
せっかくなので補足情報。『認識』はギャディスが「これ1作でノーベル文学賞獲れるかも」と思っていた超力作かつ傑作(でもあまり評価されず)。『自己責任』は著作権がらみのコメディ(全米図書賞受賞)。『アガペー』はベルンハルトが病床で独り言を綴っている感じ(?)。
「認識/The Recognitions」William Gaddis
『The Recognitions (English Edition) Kindle版』
William Gaddis,Tom McCarthy
2020/11/24
NYRB Classics
《 Kindle版、968ページ 》
Dismissed uncomprehendingly by reviewers on publication in 1955 and ignored by the literary world for decades after, The Recognitions is now established as one of the great American novels, immensely ambitious and entirely unique, a book of wild, Boschian inspiration and outrageous comedy that is also profoundly serious and sad.
Los Angeles Review of Books
“Carpenter’s Gothic”: William Gaddis’s Compositional Self
The Recognitions by William Gaddis | Goodreads
‘The Recognitions’ by William Gaddis Reconsidered With a NYRB Edition | Observer
Youtube「Leaf by Leaf」
THE RECOGNITIONS by William Gaddis(約59分)
Youtube「boyinthebadlands」
William Gaddis’ The Recognitions; A Review (Sort Of)(約13分)
「JR」ウィリアム・ギャディス、木原善彦
『JR』
ウィリアム・ギャディス,木原善彦
2018/12/21
国書刊行会
第27回全米図書賞
第5回日本翻訳大賞受賞作
《 940ページ 》
11歳の少年JRが巨大コングロマリットを立ち上げて株式市場に参入、世界経済に大波乱を巻き起こす――!?
ミステリ作家・殊能将之も熱讃した、世界文学史上の超弩級最高傑作×爆笑必至の金融ブラックコメディがついに奇跡的邦訳!!
第27回全米図書賞受賞作。
ALL REVIEWS
『JR』(国書刊行会) – 著者:ウィリアム・ギャディス 翻訳:木原 善彦 – 木原 善彦による訳者あとがき
Book Bang -ブックバン-
トマス・ピンチョンと比肩する作家の邦訳版が刊行 全930ページの重量級小説の魅力とは?[レビュアー] 水戸部功(装幀家)
国書刊行会創業50周年
私が選ぶ国書刊行会の3冊 杉江松恋
好書好日
眺めるもよし、解読もよし 作家・円城塔
ボヘミアの海岸線
『JR』ウィリアム・ギャディス|僕はアメリカ!
ウィリアム・ギャディス『JR』読書Wiki
「ボヘミアの海岸線」藤ふくろうさん制作。
ふくろうさんのXより
「ウィリアム・ギャディス『JR』読書Wikiを作った…
『JR』ウィリアム・ギャディス/国書刊行会【本が好き!】
amanatoh(アマナト)
#03 ギャディスの『JR』を舞台化した若者たちに会ってきた │ otocoto
Youtube「アサヒ 音楽と文学は色ガラス」
11歳の少年が株式市場に殴り込み | 世界文学の超弩級最高傑作ウィリアム・ギャディス『JR』異次元の邦訳(約25分)
Los Angeles Review of Books
Too Big to Succeed: On William Gaddis’s “J R”
「カーペンターズ・ゴシック」ウィリアム・ギャディス、木原善彦
『カーペンターズ・ゴシック』
ウィリアム・ギャディス,木原善彦
2019/09/26
国書刊行会
《 380ページ 》
超高密度文体で紡がれる黙示録的ゴシック・サスペンス!
全米図書賞&日本翻訳大賞受賞作『JR』の作家ギャディスによる、一軒の古いゴシック式洋館を舞台に繰り広げられる、世界的陰謀と底無しの悪意が渦巻く狂騒劇ーー
婦人公論.jp
【書評】ほぼ全編が、会話!やがて世界的陰謀が明らかに ~『カーペンターズ・ゴシック』 書評:『カーペンターズ・ゴシック』ウィリアム・ギャディス・著
Los Angeles Review of Books
“Carpenter’s Gothic”: William Gaddis’s Compositional Self
「自己責任の遊び/Frolic of His Own」William Gaddis
『Frolic of His Own (English Edition) Kindle版』
William Gaddis
2013/06/18
Scribner
《 Kindle版、514ページ 》
(この表紙は古本)
dazzling fourth novel by the author of The Recognitions, Carpenter’s Gothic, and JR uses his considerable powers of observation and satirical sensibilities to take on the American legal system.
A Frolic of His Own by William Gaddis | Goodreads
No Justice, Only the Law – The New York Times
A Frolic of His Own Summary | SuperSummary
「アガペー、アゲイプ/Agapē Agape」William Gaddis
『Agape Agape (English Edition) Kindle版』
William Gaddis
2003/09/30
Penguin Classics
《 Kindle版、146ページ 》
Dismissed uncomprehendingly by reviewers on publication in 1955 and ignored by the literary world for decades after, The Recognitions is now established as one of the great American novels, immensely ambitious and entirely unique, a book of wild, Boschian inspiration and outrageous comedy that is also profoundly serious and sad.
Agapē Agape by William Gaddis | Goodreads
Agape Agape – The Secret History of Agape Agape – The Gaddis Annotations
ウィリアム・ギャディス作品の読みもの、インタビューなど
electronic book review
William Gaddis at his Centenary(英語)
ウィリアム・ギャディス生誕100周年で、ギャディスに関する著作をまとめたもの。
William Gaddis – Index – Gaddis Annotations(英語)
ギャディスの作品の注釈を集めたHP、インタビューも。
The Gaddis Annotations
Miyamoto interview – Gaddis Nonfiction(英語)
William Gaddis – WashU Libraries(英語)
University at Albany
William Gaddis(英語)
Amazon
Carnival of Repetition: Gaddis’s the Recognitions and Postmodern Theory (Penn Studies in Contemporary American Fiction)(John Johnston/1990.04.01)
ジョン・ジョンストンがギャディスについての研究をまとめた『反復のカーニバル』。
William Gaddis in Conversation : r/TrueLit(英語/January 4, 2023)
YouTube「William Gaddis in Conversation」についての解説。
The Paris Review
Authentic Gaddis(December 3, 2020)
William Gaddis, The Art of Fiction No. 101(英語/Winter 1987)
Harper’s Magazine
Because God Did Not Relax, by Christopher Beha(英語/November 2020 issue)
KIHARA Yoshihiko@shambhalian
ギャディスが『認識』を発表した直後にデイヴィッド・マークソンは一読者としてファンレターを送る。ギャディスはその時点では無反応。でも六年後に返事を送る。そのやりとりです。
The Best William Gaddis Novels(英語/May 22, 2015)
William Gaddis: A Previously Unpublished Memoir(英語/October 16, 2013)
New Details Emerge About the Young William Gaddis(英語/October 16, 2013)
Dalkey Archive Press
A Conversation with William Gaddis By John Kuehl and Steven Moore(Summer 1982)
Youtube「alexis」
William Gaddis in Conversation(約30分)
「木原善彦」翻訳なら読みたいです。
↑木原善彦作品はこちらでまとめています。
木原善彦さんの魅力とSNSのこと
SNSのプロフィールにも「極端な小説が好き。」と書かれている木原善彦さん。著書『実験する小説たち』の目次(楽天ブックス)を見ればわかるとおり、木原さんが好む本は、どれもクセがあり、手ごわそうなものばかり(もちろん美しい小説もある)。だからこそ、彼のまわりにはそういったファンが集まってくる。
木原善彦さんは、こまめに読者さんの感想をリポスト、コメントされるため、そのファンの方との交流も盛ん。その読者の中には、翻訳家や書評家の方、大学の先生などのほか、海外文学のレビューに定評のある、SNSで人気の読者さんたちも何人かいて、いつも、いち早く本を紹介してくれる。
木原善彦さんが翻訳する作品なら、木原善彦さんが薦める作家の本ならば読破したい、そう思わせてくれるのが木原善彦作品の魅力。このウィリアム・ギャディスの作品たちも、木原善彦さんが訳してくれることを、待ち望んでいる読者がたくさんいるはずだ。
KIHARA Yoshihiko(@shambhalian)/ X
Bluesky
木原善彦(kihara yoshihiko) (@shambhalian.bsky.social)
#読了 木原善彦 – 検索 / X
木原 @shambhalian – 検索 / X
Instagram
木原善彦 ハッシュタグ
読書メーター
木原善彦の本おすすめランキング一覧|作品別の感想・レビュー
ブクログ
木原善彦 おすすめランキング (43作品)
日本翻訳大賞
日本翻訳大賞 公式HP
第五回日本翻訳大賞 受賞作決定
2019年、『JR』(木原善彦訳/国書刊行会)で受賞。
第八回日本翻訳大賞 最終選考対象作品一覧
2022年、『地上で僕らはつかの間きらめく』が
最終選考5作品に選ばれる。
ウィリアム・ギャディスの邦訳を妄想する。
デビュー作『認識』について
『認識(The Recognitions)』
(1000ページ越えの大作)
【候補1】素敵な鈍器本になりそうなので、国書刊行会さん一択。できれば『JR』の装幀を手がけた水戸部功デザインで。名ばかりの鈍器本ではなく、見た目も中身も鈍器な、本気の鈍器本ができそう(語呂がいい)。ただし、翻訳する木原善彦さんの時間と体力は少し心配。
「ウィリアム・ギャディスのファン」+「ポスト・モダン作家のファン」+「木原善彦翻訳のファン」+「鈍器本のファン」に加え、「国書刊行会のファン」+「水戸部功デザインのファン」がいるので、たぶん大丈夫。みなさまのお財布事情については何とも言えないけれど、需要はあるはず。
鈍器本が注目を集める今、約3万円の『物語要素事典』の即重版が決まったニュースが出たばかりの今なら、話題性も十分だと思う。
新潮社
ガブリエル・ガルシア=マルケス『百年の孤独』読み解き支援キット 池澤夏樹 制作
新潮文庫@shinchobunko
全国の書店さまへ!「『百年の孤独』読み解き支援キット」は自由にプリントアウトしていただき、お客様に配布していただけます。
あとは、要望。英語版の説明文で 《 理解できず、評論家から却下された 》と書かれるような、難解な作品であることは確かなので、できればガブリエル・ガルシア=マルケスの『百年の孤独』文庫化の際に喜ばれた、『百年の孤独』読み解き支援キット(PDF)のようなものがあるとありがたい。
実際、尊敬する海外文学の感想ブログ「ボヘミアの海岸線」の藤ふくろうさんは、ウィリアム・ギャディスの『JR』を読む際に、ウィリアム・ギャディス『JR』読書Wikiをscrapboxで自作されていたくらいなので。
ボヘミアの海岸線
『JR』ウィリアム・ギャディス|僕はアメリカ!
ウィリアム・ギャディス『JR』読書Wiki
「ボヘミアの海岸線」藤ふくろうさん制作。
全米図書賞受賞作『自己責任の遊び』と『アガペー、アゲイプ』について
『A Frolic of His Own』
(600ページほど)
『Agapē Agape』
(100ページほど)
邦訳候補の出版社
【候補1】ウィリアム・ギャディス『JR』『カーペンターズ・ゴシック』を刊行している、国書刊行会。
【候補2】トマス・ピンチョン、リチャード・パワーズ作品を刊行している、新潮社。内容によっては「新潮クレスト・ブックス」に入る場合も。
【候補3】謎のポスト・ポストモダン作家、エヴァン・ダーラ『失われたスクラップブック』を刊行した、幻戯書房「ルリユール叢書」。
【候補4】木原善彦さんの説明を読んだ感じだと、白水社「エクス・リブリス」も合いそうな感じ。
【追記】村上春樹さん翻訳の新刊『虚言の国 アメリカ・ファンタスティカ』がなんと「ハーパーコリンズ・ジャパン」より発売。これは、可能性がないこともなさそう。
近ごろの鈍器本の需要
ダイヤモンド・オンライン
2万8600円の「鈍器本」がアマゾン100位内の衝撃!SNSに絶賛の声「すごい辞典」「国書刊行会ヤバイ」 | ニュース3面鏡(2024.12.30)
週プレNEWS
【11月1日は「本の日」】やっぱり厚くて重い本が一番面白い!? 第2回「鈍器本」ビブリオバトル!(2024年11月01日)
読売新聞
読者の胸打つ“鈍器”…分厚くて高価な本がコロナ禍で人気のワケ(2021/02/02)
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